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静岡地方裁判所 昭和52年(行ウ)4号 判決 1977年12月20日

原告 レブロン株式会社

被告 磐田税務署長

訴訟代理人 持本健司 高梨鉄男 笹木岩男 三谷和久 ほか二名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五〇年二月六日付でなした原告の昭和四七年一一月から昭和四九年八月までの原告会社袋井工場において製造され、移出された化粧品類中、香水、整髪料および染毛料にかかる物品税の更正処分および加算税賦課決定処分(磐田間第三八〇号)は、いずれもこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案に対する答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、昭和四七年一一月から昭和四九年八月までの間に原告会社袋井工場において製造され、同工場から移出された化粧品類中、香水、整髪料および染毛料(以下「本件三物品」という。)について税額合計五三三、三二六、七〇〇円の物品税の申告をし同金額を納付したところ、被告は、昭和五〇年二月六日、右期間中の本件三物品にかかる物品税を五四九、三〇〇、三〇〇円とする更正処分および加算税を七九七、六〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をした。

2  これに対し、原告は、昭和五〇年四月五日、名古屋国税局長に対し異議申立をしたところ、同年六月三〇日付で異議申立を棄却する旨の決定を受けたので、さらに同年七月三〇日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和五一年一〇月六日付で審査請求を棄却する旨の裁決がなされ、昭和五二年一月一七日、同裁決書の謄本(以下「本件裁決書謄本」という。)の送達を受けた。

3(一)  しかしながら、原告が本件三物品についてなした物品税の申告および納付は、物品税法一三条一項に基づいて適法になされたものである。即ち、原告は、昭和三八年一一月二六日、国税庁長官に対し物品税法一三条一項の適用を受ける旨包括的に申請してその確認を受け、その後は保土ケ谷税務署長および被告ひいては国税庁長官ら国税当局によつて各年度ごとに個別的に顕在化した確認を受けてきたものである。

(二)  (一)の主張が容れられないとしても、被告を含む税務当局は、昭和四〇年頃から昭和四九年一一月までの間、原告の各年度の物品税の申告・納付を異議なく受理し、何ら更正処分等をしなかつたのであるから、税務当局と原告との間に本件三物品について物品税法一三条の一定率適用の合意又は右適用に対する税務当局の承認があつたものというべきであり、昭和三八年の包括的確認と相俟つて、本件三物品についても同法一三条の確認があつたものと看做することができる。

(三)  仮に、物品税法一三条の確認が認められないとしても、被告を含む税務当局は、数年の長きにわたつて納税者たる原告をして適法且つ適切な申告および納税を行なつている旨信じさせておきながら、突如として原告にとつて非常に過大なる負担・損失となる本件各処分をしたことは、原告が被告の早期の適切な指導によつてのみ右処分を回避することができたということを併わせ考えると、信義誠実の原則に反するものである。

4  よつて、物品税法一三条の適用を認めない被告の本件各処分は違法であるので、その取消しを求める。

二  被告の答弁

(本案前の抗弁)

本件訴は、法定の出訴期間を徒過した違法な訴である。即ち、国税不服審判所長は、本件各処分に対する原告の審査請求について昭和五一年一〇月六日付でこれを棄却する旨の裁決をなし、本件裁決書謄本は昭和五二年一月一四日原告に送達されたので、原告は同日右裁決があつたことを知つたものというべきであるところ、行政事件訴訟法一四条一項、四項によれば、審査裁決があつたことを知つた日から起算して三箇月以内に取消訴訟を提起すべく、この場合出訴期間の計算は初日を算入して計算すべきであるから、本件訴は同年四月一三日の経過をもつて法定の出訴期間が満了したことになる。従つて、同月一四日に提起された本件訴は法定の出訴期間を徒過した不適法な訴であるから却下されるべきである。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1は認める。但し、本件三物品としている香水、整髪料および染毛料については、整髪料と称する物品のなかに養毛料が含まれているので、物品数は前記三物品に養毛料を含めた四物品である。また、加算税とあるのは過少申告加算税が正しい。

2 同2のうち、送達年月日は否認するが、その余の事実は認める。

3(一) 同3の(一)のうち、本件四物品について物品税法一三条二項の確認がなされたことは否認する。

(二) 同3の(二)のうち、原告が昭和四九年一一月までの間、被告又は戸塚税務署長(現在は保土ケ谷税務署長)に対し物品税の申告・納付をしたことおよび右の申告に対し本件四物品につき更正処分がなされなかつたことは認めるが、その余は争う。

(三) 同3の(三)は争う。

4 同4は争う。

三  本案前の抗弁に対する原告の主張

1  本件訴は、法定の出訴期間内に提起された適法な訴である。即ち、原告は、登記簿上の本店を静岡県袋井市西田一〇〇番地に置く、同所は会社の機構上は工場所在地であつて製品の製造にかかる業務を処理するのみであり、事務の決定・遂行その他一切の会社業務は、会社役員および幹部社員等が日常勤務している東京都港区南青山二丁目二番二号所在の登記簿上の支店東京事務所で統括して行なつており、右東京事務所が原告の実質的な本店であり、登記簿上の本店に送達される主要あるいは重要文書は全てそのまま東京事務所に転送されてしかるべく処理されている。

本件各処分につき原告がした審査請求に対する本件裁決書謄本は、昭和五二年一月一七日、原告の実質上の本店である東京事務所の担当者により受領され原告に送達されたものであり、原告は同月四月一四日に本訴を提起したのであるから、本訴は出訴期聞を遵守した適法なものである。

2  原告は、本件裁決書謄本を当初受領した原告の登記簿上の本店に送達書類の受領権限がなかつたとまでは主張するものではないが、審査請求が代理人によつてなされている場合には、当該審査請求に対する裁決書の謄本は、本来審査請求代理人に対して送達されるべきものである。即ち、国税通則法一〇一条一項において準用する同法八四条三項の規定による審査請求人に対する裁決書の謄本の送達は、同法一二条乃至一四条の定めるところにより行なわれているが、総代(同法一〇八条)あるいは納税管理人(同法一一七条)が選任されているときは裁決書の謄本は総代又は納税管理人に送達されるべきものと解されていることおよび総代あるいは納税管理人は代理人とその地位・権限、選任・廃止の手続等が極めて類似していることなどに照らすと、審査請求手続の一切が代理人によつて行われている場合には、審査請求に対する裁決書の謄本は、これらとの均衡上、代理人に対して送達されるべきものである。

これを本件についてみると、原告訴訟代理人らは、本件各処分につき原告より委任を受けて原告の審査請求代理人として国税不服審判所長に対し委任状を添えて審査請求をなし、名古屋国税局長の答弁書に対して反論書を作成し提出するなど本件審査請求手続の一切を行なつてきたのであるから、本件裁決書謄本は、本来、審査請求代理人である原告訴訟代理人らに送達されるべきであつた。因に、原告訴訟代理人らが原告より本件裁決書謄本の送付を受けたのは昭和五二年一月二一日である。

3  仮に、本件裁決書謄本が昭和五二年一月一四日に原告に送達されたものとしても、行政事件訴訟法は期間の計算について特に定めるところがないので、同法にいう処分の取消訴訟の出訴期間の算定にあたつては同法七条、民事訴訟法一五六条、民法一三八条、一四〇条により初日を算入すべきではなく、行政事件訴訟法一四条四項が適用される場合においても同条一項および三項適用の場合と別異に解する合理的理由は存しない。しかも、本件においては、1および2で述べたような特殊の事情があるうえ、これに加えて昭和五二年一月一四日の翌日が国民の祝日に、翌々日が日曜日にそれぞれ該当しており、原告をも含めて通常国民の不就労日であつたという特段の事情が存したのであるから、本訴の出訴期間の算定にあたつては初日を算入すべきではない。そして、原告は、前記のとおり同年四月一四日に本訴を提起しているのであるから、右の出訴期間は遵守されている。

四  原告の本案前の主張に対する被告の反論

1  仮に、原告の主張するように原告の東京事務所において審査請求、本訴の提起等の事務がなされていたとしても、それは原告の内部的な事務処理上の問題にすぎないうえ、原告の本店が本件裁決書謄本の受領権限を有することについては原告も特に争わないところであるから、本件裁決書謄本が昭和五二年一月一四日原告の本店に対し送達され、原告が権限に基づいて右謄本を受領した以上、原告は同日本件裁決があつたことを知つたものというべきである。

2  総代又は納税管理人により審査請求がなされた場合には、同人らに対してのみ審査裁決書謄本等が送達される取扱いであるが、これは国税通則法に基づく不服申立手続においては総代又は納税管理人は不服申立てにあたつての代理人ではなく、むしろ不服申立人と同一の地立にあるものとみなされていることによるものであるから、これをもつて単に不服申立てをなすにあたり本人を代理するにすぎない者を総代又は納税管理人と同様に取扱うべき理由とすることはできない。

以上によれば、審査請求が代理人によつてなされた場合、裁決書謄本等の送達を代理人に対してのみ行い、審査請求本人には送達すべきではないとする合理的理由は見出し難いから、右謄本の送達は不服申立本人又は代理人のいずれに対しても行うことが可能であると解すべきである。なお、実務上は代理人が選任されている場合でも、主として不服申立本人に対し異議決定謄本又は審査裁決書謄本の送達がなされている。

また、国税不服審判所等からの送達とは異なり、裁判所からの訴訟書類の送達は、逆に訴訟代理人に対してなすのが通例とされているが、この場合においても当事者本人に対する送達を妨げるものではないから(最高裁昭和二五年六月二五日第二小法延判決・民集四巻六号二四〇頁参照)、この点からしても審査請求本人に対してなされた本件送達が適法であることは明らかである。

3  原告は、本件裁決書謄本の送達がなされた昭和五二年一月一四日の翌日および翌々日が休日であつたことをあげて出訴期間の計算上同日を初日に算入すべきでない旨主張するが、国税通則法一〇条にはかかる特例は設けられていない以上、出訴期間の算定にあたつて右のような事情を特に考慮に入れるべき余地はない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  被告が昭和五〇年二月六日本件各処分をなし、原告がこれに対して同年四月五日名古屋国税局長に対し異議申立をしたところ、同年六月三〇日付で異議申立を棄却する旨の決定を受け、さらに同年七月三〇日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和五一年一〇月六日付で審査請求を棄却する旨の裁決がなされたことおよび静岡県袋井市西田一〇〇番地に所在する原告の本店が本件裁決書謄本等の送達書類の受領権限を有することは、当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によれば、本件裁決書謄本が昭和五二年一月一四日、書留配達証明郵便により原告の本店に送達きれたことが認められ、これに反する証拠はなく、また本件訴が同年四月一四日に提起されたことは記録上明らかである。

二  原告は、製品の製造にかかる業務以外の一切の業務はすべて原告の登記簿上の支店東京事務所において統括して行なわれており、同事務所が原告の実質上の本店であつて、同事務所の担当者が本件裁決書謄本を受領した昭和五二年一月一七日に右謄本の送達があつた旨主張するが、仮に原告の東京事務所における業務内容が原告の主張するとおりであつたとしても、それは原告会社の内部的な業務分掌上の問題にすぎず、前記一記載のとおり、本件裁決書謄本は、同年一月一四日その受領権限を有する原告の登記簿上の本店に対して適法に送達されたものであるから、原告は同日をもつて本件裁決があつたことを知つたものというべきである

三  次に原告は、審査請求が代理人によつてなされた場合には、当該審査請求に対する裁決書の謄本は代理人に対して送達されるべきである旨主張するので、検討すると、〈証拠省略〉によれば、原告訴訟代理人らは、いずれも弁護士であつて本件各処分につき原告より委任を受けて原告の審査請求代理人として国税不服審判所長に対し委任状を添えて審査請求をなし、名古屋国税局長の答弁書に対する反論書を作成・提出するなど審査請求手続の一切を行なつてきたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、実務上は、総代又は納税管理人が選任されている場合は、同人らに対して審査裁決書の謄本が送達きれる取扱いであるのに比し、代理人によつて審査請求がなされた場合には、なるべく本人に対して送達するものとされているところ、本件におけるように弁護士である代理人が審査請求本人に代わつて審査請求手続の一切を行なつているような場合には、審査裁決書の謄本は代理人に対して送達するのを本則とするのが妥当というべきであるが、右のような実務上の取扱いも違法とはいえないから、この場合において審査請求本人に対して送達がなされたとしても、その送達の効力は妨げられるものではない。従つて、本件につき審査請求本人である原告に対してなされた本件裁決書謄本の送達は適法且つ有効なものということができる。

四  原告は、本訴の出訴期間の算定にあたつては、初日を算入すべきでない旨主張するが、行政事件訴訟法一四条四項を適用して取消訴訟の出訴期間を計算する場合には、裁決があつたことを知つた日又は裁決があつた日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものと解するのが相当であり(最高裁昭和五二年二月一七日第一小法廷判決・民集三一巻一号五〇頁)、また、右の起算日は形式的・画一的に定められるべきものであるから、その判定にあたつては、原告が主張するような原告会社の内部的な業務分掌上の問題や審査請求が代理人によつてなされたのに裁決書の謄本が本人に送達されたとか、その送達日の翌日と翌々日が一般の休日に該るとかの事情はこれを考慮にいれるべきではない。

そして、本件において原告が本件裁決のあつたことを知つたのは前記のとおり昭和五二年一月一四日であるから、同日を初日として期間の計算をすると、同年四月一四日に提起された本件訴は法定の三箇月の出訴期間を徒過した不適法なものといわなければならない。

五  よつて、原告の本訴は不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松岡登 人見泰碩 小野剛)

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